第34回出雲駅伝区間予想【駒澤大学編】

 

はじめに

 駒澤大学は、名将・大八木弘明監督の指揮のもと、出雲3回、全日本14回、箱根7回の優勝を誇る駅伝の名門校である。特に2000年代は駒澤大学の黄金期と呼ばれ、2002~2005年に渡り箱根駅伝4連覇を達成。”平成の常勝軍団”の称号を得て駅伝界に旋風を巻き起こした。

 ところが2015年頃から、青山学院大学東洋大学東海大学が覇権争いを繰り広げるようになった時期を同じくして一時低迷。2018年の箱根駅伝では9年ぶりにシード権を逃した。

 この低迷期に、大八木監督が変化した。これまでの熱血指導から、現代の子供たちの気質に合わせた、親しみやすさ、厳しさと愛情をより感じられる指導方法に方針を変えた。そして"令和の怪物"こと田澤廉をエースに添えた2020年の全日本大学駅伝で王座奪還。その2か月後に行われた箱根駅伝では10区最終盤で創価大を逆転し総合優勝を果たした。更に2021年の全日本大学駅伝で昨年に続き連覇を果たし、"令和の常勝軍団"として覇権を取り戻しつつある。

 

大八木弘明駒澤大学陸上競技部監督

 

 学生三大駅伝のうち、全日本大学駅伝箱根駅伝では直近3年内に優勝を果たした。しかしながら出雲駅伝は2013年の25回大会以来優勝から遠ざかっている。今年はチームを引っ張ってきたエース田澤廉が4年生となり、彼にとっても集大成の年。是が非でも優勝を狙いたい。

 

 

区間配置の傾向

 出雲駅伝は通称スピード駅伝と呼ばれ、他の三大駅伝と比較して走行距離が短い。

 

出雲駅伝(45.1km)】

 1区8.0kmー2区5.8kmー3区8.5kmー4区6.2kmー5区6.4kmー6区10.2km

 

全日本大学駅伝(106.8km)】

 1区9.5kmー2区11.1kmー3区11.9kmー4区11.8km

 5区12.4kmー6区12.8kmー7区17.6kmー8区19.7km

 

箱根駅伝(217.1km)】

 1区21.3kmー2区23.1kmー3区21.4kmー4区20.9kmー5区20.8km

 6区20.8kmー7区21.3kmー8区21.4kmー9区23.1kmー10区23.0km

 

 距離が短い駅伝なだけに、前半で遅れたチームが後半巻き返すのはなかなか難しく、前半区間に力のある選手を配置するのがセオリーとなりつつある。一方、外国人留学生などの大砲を持っているチームは、アンカーにその大エースを添えて、前半区間で耐えてラストで逆転するオーダーを組む場合もある。

 昨年、駒澤大学は、東京国際大学の6区出走が予想された怪物留学生イエゴン・ヴィンセントに対抗すべく6区に絶対的エースの田澤廉を配置した。しかし6区に渡るまでに総合8位、トップとの差2分22秒と完全に出遅れ、田澤は8位で受けたタスキを5位に押し上げるので精いっぱいだった。序盤の出遅れが致命傷になることが明白になり、同じ轍は踏まないような区間配置になるのではないか。

 

 2015~2017年は3区を当時のエース工藤有生が走ったり、元々3区重視の傾向があるので、今年は従来のセオリー通り前半区間に主力を置いてくると想定される。

 

 

区間予想

 以上を踏まえたうえで、各区間区間予想をしてみる。なお、既に発表された今回のエントリーメンバーは以下の通り。この10名の中から6人が走ることになる。

 

 【4年生】田澤廉、円健介、山野力

 【3年生】鈴木芽吹、花尾恭介、安原太陽

 【2年生】吉本真啓

 【1年生】伊藤蒼唯、佐藤圭汰、山川拓馬

 

 

●1区予想:伊藤蒼唯

 

伊藤蒼唯(1年生)

 

 大八木監督期待のルーキーを1区に大抜擢。大八木監督の1区配置の傾向は、安定感のある上級生or期待の1年生のどちらかであるパターンが多い。例えば昨年は1年生の篠原倖太朗が走り、2017年も当時1年生の加藤淳が走っている。

 1年生が走らなかった年については、2019年の山下一貴(当時4年)、2016年の西山雄介(当時4年)、2015年の中谷圭祐(当時3年)など主力ど真ん中の上級生が担当している。

 今年は田澤廉、山野力、花尾恭介、(怪我の状態次第で)鈴木芽吹がど真ん中の主力に当たるが、後述の通り後半区間のほうがハマりそうなので今回は期待の1年生を大胆予想。

 ルーキーなら佐藤圭汰も有力な選択肢で、多分佐藤を推す声のほうが多いと思う。しかしながら伊藤を推した理由は、大八木監督の期待度と2区3区に挽回できる駒を置けること。なんとなく昨年篠原がデビューした時と似た雰囲気を感じる。鮮烈デビューを飾ってもらおう。

 

 

●2区予想:安原太陽

 

安原太陽(3年生)



 

 昨年区間3位で走った安原を今年も2区に起用予想。

 当然前回結果を出したことも大きな理由なのだが、1区に伊藤を起用する場合、2区に安原という安心感あるランナーを配置することで伊藤を走りやすくさせる狙いもある。

 全日本大学駅伝を走っているので10kmの距離も十分走れるのだが、5,000が適正距離か。彼の距離適性を考えても、長距離区間より短い区間のほうが持ち味を発揮できそう。

 

 

●3区予想:田澤廉

 

田澤廉(4年生)

 

 青山学院大学区間予想でも書いたが、前回大会で駒澤大学は6区に田澤を配置したが、それまでの区間で先頭と差を付けられてしまい、田澤にタスキが渡る前に優勝争いから脱落した。田澤は化け物留学生ヴィンセント(東京国際大)に次ぐ区間2位の爆走を見せたが、8位で受けたタスキを5位に押し上げるので精いっぱいだった。前半で遅れた昨年と同じ轍は踏まない。そのような背景から田澤3区投入が噂されている。

 当然田澤3区投入には、6区を走ることができる別の選手の存在がある。それはこの後の6区予想にて。

 

 

●4区予想:佐藤圭汰

 

佐藤圭汰(1年生)

 

 鈴木芽吹がまだ本調子ではないと仮定して、佐藤圭汰。芽吹が万全なら4区鈴木で1区佐藤。佐藤は箱根駅伝の出走が怪しいので、出雲は走らせる?という保険を張っている...いや、その予想はあまりにも男らしくない。

 予想する以上、第二候補などの逃げ道は作らない。男の一点狙いで、芽吹欠場&佐藤の4区起用を予想する。

 伊藤1区と佐藤4区は逆だろ?という声も上がりそうだが、佐藤の5,000mの距離適性の高さと、伊藤が箱根駅伝の出場まで見据えたときに長い距離の経験を積ませたい意向を想定し、この区間配置を積極予想していく。

 

 

●5区:山野力

 

山野力(4年生)

 

 ハーフマラソンで学生最高記録を叩き出した駒澤大学の主将。

 箱根駅伝では最長区間の9区を任されたり、前述のとおりハーフマラソンの実績があるので6区も十分任すことができる選手。この選手を5区に予想した理由は、5区のコース特徴にある。

 5区は出雲駅伝全6区間の中で比較的アップダウンが多いコースで、距離以上に負担が大きい区間であると言われている。アップダウンに強いのは今回のエントリーメンバーでは山野になるだろう。

 長い距離のイメージが強いが5,000m13分47秒の記録を持っているので、6.4kmの距離でも十分持ち味を発揮できるのではないだろうか。

 

 

●6区:花尾恭介

 

花尾恭介(3年生)

 

 長い距離の安定感が光る実力者。1年生の頃から学生三大駅伝にフル出場していて、堅実で安定感ある走りを披露している。いわゆる大崩れしないタイプの職人気質のランナーで、アンカーに置くには非常に心強い選手と言えるだろう。

 2021年の全日本大学駅伝ではアンカー8区に出走し、青山学院大学のキャプテン飯田貴之との一騎打ちに勝利し優勝のゴールテープを切った。

 今年の関東インカレではハーフマラソンに出場し、國學院大学のエース・伊地知賢造と6秒差の2位に輝いた。ちなみに同じレースに5区予想の山野力もエントリーしていて、花尾と7秒差の4位でフィニッシュしている。

 花尾は安定感ある走りが魅力でいわゆるゲームチェンジャーのような爆発力あるタイプの選手ではないため、花尾に渡るまでに追う展開になっていたら苦しい。花尾に渡るまでにリードを奪いたい。それを可能にするのが3区田澤-4区佐藤-5区山野であり、レースプランを考察しても現実的な選択肢であると考えている。

 

区間予想まとめ

 

●1区予想:伊藤蒼唯

●2区予想:安原太陽

●3区予想:田澤廉

●4区予想:佐藤圭汰

●5区予想:山野力

●6区予想:花尾恭介

 

 ちなみに個人的な話だが、筆者は職場の後輩と「出雲の区間予想を当てたらコーヒーとプレミアムロールケーキを買ってもらう」という契約を交わしている。

 見事的中させ、分析力の証明と優雅なコーヒータイムを手に入れたいものだ。