第34回出雲駅伝区間予想【青山学院大学編】

 

はじめに

 駅伝における青山学院大学は、創部の歴史は古いものの長らく常勝チームになるには至らず、2000年代までは予選会突破を目標にするレベルのいわゆる弱小校だった。その中で、2005年に学校として駅伝強化の方針を掲げ、長距離ブロックの監督に原晋を招聘してから着実に力をつけ、現在は学生駅伝の頂点に君臨すると言っていいほどの強豪校に成長した。

 特に今年1月に開催された第98回箱根駅伝においては、エントリーメンバー全員が10,000m28分台の記録を持つ盤石の布陣で臨み、大会新記録で圧勝した。その時の優勝メンバーが今年もほとんど残っていることから、次回99回大会でも優勝候補の大本命として注目されている。

 

原晋・青山学院大学陸上競技部長距離ブロック監督

 

 学生駅伝は箱根駅伝があまりにも有名だが、毎年スポーツの日に開催される出雲駅伝、11月第一日曜日に開催される全日本大学駅伝の2つも大きな注目を集める大会で、この3つを合わせて「学生三大駅伝」という呼称で親しまれている。更に、これら3大会を全て優勝することは駅伝三冠と呼ばれ、今年の青山学院大学は例年以上に三冠奪取のチャンスであると考えている。

 したがって、三大駅伝初戦の出雲駅伝は「育成?下級生に経験させる?そんなの知らねぇ」の精神で、いつも以上に全力で優勝を狙いに来ると考えている。

 

 

区間配置の傾向

 出雲駅伝は通称スピード駅伝と呼ばれ、他の三大駅伝と比較して走行距離が短い。

 

出雲駅伝(45.1km)】

 1区8.0kmー2区5.8kmー3区8.5kmー4区6.2kmー5区6.4kmー6区10.2km

 

全日本大学駅伝(106.8km)】

 1区9.5kmー2区11.1kmー3区11.9kmー4区11.8km

 5区12.4kmー6区12.8kmー7区17.6kmー8区19.7km

 

箱根駅伝(217.1km)】

 1区21.3kmー2区23.1kmー3区21.4kmー4区20.9kmー5区20.8km

 6区20.8kmー7区21.3kmー8区21.4kmー9区23.1kmー10区23.0km

 

 距離が短い駅伝なだけに、前半で遅れたチームが後半巻き返すのはなかなか難しく、前半区間に力のある選手を配置するのがセオリーとなりつつある。一方、外国人留学生などの大砲を持っているチームは、アンカーにその大エースを添えて、前半区間で耐えてラストで逆転するオーダーを組む場合もある。

 原監督はどちらの傾向が近いのかと言えば、過去の区間配置を見るに明らかに前半重視型のオーダーを組む傾向がある。そして、その戦略で過去に結果を何度も出していることから、今回も前半重視型のオーダーで来るのではないかと考えている。

 

 各区間ともに大事である前提の上で、原監督が最も重要視しているのが3区。次いで1区→2区→6区=4区→5区。こんな順番でプライオリティが高いのではないかという印象だ。

 

 

区間予想

 以上を踏まえたうえで、各区間区間予想をしてみる。なお、既に発表された今回のエントリーメンバーは以下の通り。この10名の中から6人が走ることになる。

 

 【4年生】宮坂大器、近藤幸太郎、目片将大、中村唯翔、横田俊吾

 【3年生】山内健登、志貴勇

 【2年生】鶴川正也、野村昭夢、田中悠登

 【1年生】エントリーなし

 

 

●1区予想:志貴勇

 

貴勇斗(3年生)

 

 志貴は出雲駅伝の出走経験はないが、前回の全日本&箱根に出場し共に1区を走り、両大会とも合格点の走りをしている。いわば1区の走りをよく知っている選手。

 1区は集団走になることからペース変動などの駆け引きが生まれやすく、持ちタイム上位の選手が自分のペースを乱したために出遅れるケースが度々みられる。出雲は距離が短い分1区の出遅れが致命傷になりやすく、序盤でのゲームオーバーを避けるために確実に流れを掴みたい。それを考えたときに、集団走の適性を見せた志貴は最適な選択であると言えよう。

 

 

●2区予想:中村唯

 

中村唯翔(4年生)

 

 人によっては最短区間である2区に彼を配置することを「もったいない」ととらえる方もいるだろう。中村は前回の箱根駅伝で9区を走り、従来の区間記録を1分近く更新する衝撃の区間記録を叩き出した実力者。10,000mの持ちタイムは近藤に次ぐチーム2位で、1・3・6区の長い距離を任せたくなる選手である。

 しかし、過去の区間配置を見るに原監督はこの2区を結構重要視しているような気がしており、2・4・5区の中では多分一番重要視している。過去にはエース格の田村和希も2区を走っており、昨年は長い距離が得意と目されていた飯田貴之も走っている。

 また、1区の志貴は爆走タイプではなく先頭が見える位置で着実にタスキをつなぐ安定感が魅力の選手なので、後続を突き放すとしたらこの2区。1&2区で流れを掴み、エース区間の3区で先頭に立つべく主力の中村を惜しみなく投入してくると予想している。

 

 

●3区予想:近藤幸太郎

 

近藤幸太郎(4年生)

 

 原監督が最も重要視していると思われる区間。過去の選手を見ても一色や森田、久保田、下田、吉田圭など各世代で最も信頼されていたであろう選手が走っている。今の青学で最も信頼されている選手は間違いなく近藤なので、アクシデントが無い限りは彼の3区は固いのではないだろうか。

 また、今回駒澤大学が3区に大エースの田澤を投入してくるのではないかという噂がまことしやかに囁かれている。前回大会で駒澤大学は6区に田澤を配置したが、それまでの区間で先頭と差を付けられてしまい、田澤にタスキが渡る前に優勝争いから脱落した。田澤は化け物留学生ヴィンセント(東京国際大)に次ぐ区間2位の爆走を見せたが、8位で受けたタスキを5位に押し上げるにで精いっぱいだった。前半で遅れた昨年と同じ轍は踏まない。そのような背景から田澤3区投入が噂されている。青学の選手の中で田澤と張り合うには近藤をぶつけるしかないだろう。

 ちなみに前回3区を走った佐藤一世は怪我明けのためかエントリーから外れたが、仮に今回佐藤の怪我がなかったとしても今年は近藤が走っていただろう(多分)。

 

 

●4区予想:目片将大

 

目片将大(4年)

 

 今季5,000mで近藤に次ぐ2位の記録を叩き出したスピードランナー。前回大会は5区を走り区間6位の記録を残した。前回と同じ5区出走の可能性については、原監督の区間配置の傾向的に5区よりも4区を重視する雰囲気が感じ取れたため4区を予想した。

 ちなみに5,000mの自己記録では中村を上回るので2区も考えたが、駅伝経験の利を考慮し中村2区、目片4区を予想した。目片は全日本大学駅伝箱根駅伝の出走経験は無いが、5,000mではチームのエースと呼べるタイムを持っているのでアクシデントが無ければ間違いなく出走してくるだろう。

 ちなみに短い距離がクロースアップされるが今年はハーフマラソンも走り好成績を出しており、全日本&箱根の出走も十分予想される。箱根を走るとしたら6区かな!なんちゃって。

 

 

●5区:鶴川正也

 

鶴川正也

 

 高校時代、全国高校駅伝1区で区間賞を獲得した期待の星。高校駅伝における1区は全7区間中最も長い10kmあり、基本的にチームで最も力のある選手が走る。ここで区間賞を獲得することは、その世代の中でも最強の称号を得ることとほぼ同義である。1年時は怪我もあり駅伝出走はならなかったが、今年は調子よくここまで来ており、満を持しての駅伝デビューを予想する。

 原監督は初出走の選手を5区に配置することが多い。更に今季5,000mで結果を出し続けていることから、6.2kmという距離適性も考慮し5区を予想した。前述のように高校駅伝区間賞を獲得したころからロード適正も高そうなので、多少アップダウンがある5区といえど問題なく走ってくれるだろう。

 

 

 

●6区:横田俊吾

 

横田俊吾(4年生)

 

 卓球のスマッシュのような独特の腕振りが特徴の、通称"よこたっきゅう"。前回大会も6区を走り区間3位と好走し、青学の総合3位に大きく貢献した。特に前半からかっ飛ばした國學院大學・平林に惑わされず自分のペースを刻み続け、最終的に平林を逆転した粘り強さと状況判断力はアンカー向きであると言えよう。

 原監督は「前回も走って速かったから今回も同じとこ!」という区間配置はあまりしないのだが、横田は今年トラックシーズンもここまで好調に来ており、単純にコース適性の高さを考えても6区出走は最も考えられる選択肢だろう。

 原監督が本当に筆者の予想した1~5区までのメンバーで来るなら、1区志貴が先頭の見える位置でタスキを繋ぎ、2区中村で先頭に立ち、3区近藤で他大学のエースの猛追を逃げ切り、4区目片で差を広げ、5区鶴川が差を維持しながら6区で逃げ切るというレースプランが想像しやすい。その場合適任なのは、やはり粘り強さのある横田ということになるだろう。

 

 

区間予想まとめ

 

●1区予想:志貴勇

●2区予想:中村唯

●3区予想:近藤幸太郎

●4区予想:目片将大

●5区予想:鶴川正也

●6区予想:横田俊吾

 

 ちなみに個人的な話だが、筆者は職場の後輩と「出雲の区間予想を当てたらコーヒーとプレミアムロールケーキを買ってもらう」という契約を交わしている。

 見事的中させ、分析力の証明と優雅なコーヒータイムを手に入れたいものだ。